ALTERNATIVE SPACE The White

The White Report 月間ウェブマガジン

The White Report 2014年 11月号  毎月20日更新

–目次–

There is a method in our madness.
〜我々の狂気には筋が通っている〜
澤田 育久
There is a method in our madness. 〜我々の狂気には筋が通っている〜
澤田 育久 (写真家)
「お前は自己発見のために撃つ。俺は自己喪失のためだ」
映画”エル・トポ”より

台詞はこの後「自己を失ってこそ完璧だ」「完璧すぎるのも欠点だ」と続きます。写真を撮る行為は自己発見と自己喪失を同時に目指すものであり、自己が放棄された後に浮かび上がってくる普遍的なものを目指しながらも、その行為の中で作家自身の個に根ざした独自のものが滲み出し、それを積極的に受け入れることによって自己更新を繰り返していく作業だと思います。思考と行為は常にダブルバインドのような関係にあり、意識の上では匿名性や普遍性を指向しつつも作家自身の身体性や欲求、更には高揚感や快感などの抗いがたい固有の要素を完全に排除することは不可能であり、定形を想定して撮影していてもそれに近づくにつれて歪んだ形に変形し、完全な普遍性を求めれば求めるほど独自の性質が浮かび上がってくるのではないかと思います。我々が指向する完璧とは不定形な完璧であり、理想型としての”完璧なもの”には近づき過ぎないよう注意深く距離をとる必要があります。なぜならその”完璧なもの”の正体は作家の個とは無関係な通俗的な美意識に過ぎないかもしれないからです。 映画の冒頭の*「*モグラは穴を掘って太陽を探している。ときに地上へたどり着くが太陽を見た途端、眼は光を失う」にあるように、我々の活動は執拗に写真行為を繰り返しながらも目指す先には喪失があり、発見と喪失がただ無為に繰り返されるだけなのかもしれません。