ALTERNATIVE SPACE The White

Exhibition 展覧会情報

金子 泰久「撮影環境と、類似した行為の繰り返し / The repetition of similar acts and shooting environment」

The White 企画展

金子 泰久「撮影環境と、類似した行為の繰り返し / The repetition of similar acts and shooting environment」

2016年06月21日 〜2016年07月02日

13:00〜19:00 日・月曜 休み

Statement

与えられた土地は土が堅く、岩が多く混じっている。スコップ、備中鍬では歯が立たない。本当ならパワーショベルが必要なのだが、今回は予算の都合で用意ができない。地道にツルハシで土と岩を解していくしか無い。横幅およそ1メートル、長さ2メートル半、深さ1メートル。普段掘っている墓穴の倍近いサイズである。遺体をそのまま埋めるのか。そう勘ぐりたくなるサイズである。明日の朝までに3基を仕上げなければならない。午前中は道具の用意とここまでの移動。先ほどまで依頼主から土地の説明と、その他諸々。そろそろ作業を始めなければ明日の朝までには終わらない。日差しが傾き始めている。雲行きも怪しい。地平線に囲まれ、周りには何も無い。乗ってきたトラックがあるだけである。岩と土と地平線。こんなところにぽつねんと墓を建てるのか。誰がそこに眠るのか。それは知らされていない。まず場所を特定する為に杭を打ち込む。寸法に合わせて、4本の杭を打ち込む。続けて、すぐ隣に2基目の寸法を測る。それにしても岩が多い。長さが30センチほどの程の杭だが、打ち込むのに苦労する。これは先が思いやられる。打ち込んだ杭にロープを張り場所を決定する。休まず3基目に取掛かる。杭が折れる。岩の上に刺してしまったのか。土と岩が細かく混在している。場所を少し変えるべきか。細かい場所の指定は無かったからそれでも良いであろう。地面の加減を見ながら、もう一度やり直す。今度は杭が折れることはなく、無事に3基目が終わる。一応、スコップも備中鍬も用意はあるが、いきなりツルハシで地面を叩く。かなりの手応えである。しかし、地表は固くても中に進めば柔らかいということもある。ツルハシで掘り続けるしか無いだろう。風が冷たい。雲の流れが速い。目線は地面だが、視界に空が入る。ツルハシを振り上げ土に突き刺し抜く。この行為を休むこと無く続ける。相変わらず地面は固いが少しづつ体が慣れ始める。ツルハシを振り上げ、土に突き刺し抜く。体が慣れ始めると力加減が楽になる。ほとんど力を入れずにツルハシの重みと勢いだけで土を叩くことが出来る。ツルハシを振り上げ土に突き刺し抜く。この作業の繰り返しである。何も考えない。土を見つめる。視界に空が入る。空気が冷たい。体が慣れ始めると力加減が楽になる。ツルハシを振り上げ土に突き刺し抜く。作業は順調に進む。日が傾き始める。雲の流れが速い。作業を続ける。ツルハシを振り上げ土に突き刺し抜く。反復する作業。ツルハシを振り上げ土に突き刺し抜く。空がやや暗くなり始める。雲が多く地平線に沈む太陽は見えない。薄暗くなり、手元が怪しい。カンテラに灯を点す。このまま明日の朝まで作業を続けよう。思いのほか作業は捗っている。掘り進むにつれ土も柔らかく岩もそれほどでてこない。地表の浅い部分に岩が多く転がっていたようである。ツルハシを振り上げ土に突き刺し抜く。体が慣れてツルハシの重みを振り子のように使う。ツルハシを振り上げ土に突き刺し抜く。反復する作業。ツルハシを振り上げ土に突き刺し抜く。永遠に続く振り子の動き。土を見つめる。視界に空の黒が入る。雲が多く月は見えない。このツルハシを振り上げる行為は、同じ動きを反復してはいるが、全く同じ場所を叩いている訳ではない。土を見つめる視線を徐々に動かし、ツルハシの先端が同じ場所を叩くことが無いように、僅かながら叩く場所を変えている。そして変えつつ戻る。戻りながらツルハシの先で土を解す。端から見ていると同じ行為の繰り返しのように見えるが、そうではない。それぞれ視線が違っていたり、叩く場所が違っていたりする。同じ行為が繰り返されている訳ではない。それぞれの一回ごとに固有な動作がある。ただ、ツルハシを振り上げ土に突き刺し抜くという行為には共通項があるのだから、その部分だけを考えて、同じ行為の繰り返しとすることもできる。しかしそう考えるのはあまりに短略的すぎる。それぞれの一回ごとに固有な部分を排除して、ある一定の繰り返される行為の共通点だけを対象とし、思考するのはちょっと乱暴であろう。墓を掘るという大きな括りの中で反復される、ツルハシを振り上げ土に突き刺し抜くという行為。その行為自体もそれぞれに固有の事象を持ち合わせる。無数の固有の事象が寄せ集められ、墓を掘るという行為を現す。そして明日もまた墓を掘る。そしてまたその次の日も墓を掘る。ツルハシを振り上げ土に突き刺し抜く、その行為の集合が、墓堀りの毎日を作る。ツルハシを振り上げ土に突き刺し抜く、この行為は常にそれぞれが固有の事象なのである。反復とは、果たして単純に同じ行為の繰り返しのことと言えるのであろうか。反復しているかのように見えるその行為は、それぞれが独立した、固有の一個の存在である。その集合が墓を掘るという次の固有の一個をつくる。寄せ集められ、ひとつになり、また寄せ集められ、ひとつになる。それの繰り返しである。墓を掘るというひとつの行為の中に織り込まれた複数の固有の存在。複数の上に成り立つ単数という存在。そんなことを考えながらも行為は続く。ツルハシを振り上げ土に突き刺し抜く。ツルハシを振り上げ土に突き刺し抜く。土の素直な状態が続き、ひとつめの墓穴が完成する。その勢いでふたつめの墓穴を掘り始める。またも同じ行為である。ツルハシを振り上げ土に突き刺し抜く。ツルハシを振り上げ土に突き刺し抜く。肉体に疲労は無い。ツルハシにもヘタレは無い。ツルハシを振り上げ土に突き刺し抜く。順調である。ただし雲行きが怪しい。冷たい風が流れる。空気が湿っぽい。雨である。ポツリポツリと降りはじめる。横風に流され、視界の中を斜めに雨が走る。粒であった水滴が、風に流され細い線になる。線が幾重にも重なり視界の中を流れる。地面を叩く。にわかに本降りとなる。小さかった雨粒も大きくなり、弾丸のように地面を叩く。地面が柔らかくなり作業が捗る。ツルハシも順調である。視線は地面のまだ解していないところを探しながら、右へ左へと動く。視界には空はもう無い。その代わりに弾丸のように地面に打ち込まれる雨が見える。バシャバシャと大きな音をたてながら、雨は地面に叩き付けられる。2墓目も終わりに近づく頃、1基目の墓穴に雨水が溜まっていることに気がつく。1メートルも掘り下げた穴に勢いよく雨が降り込む。このまま降り続けば穴は水に侵され、きれいに整えた墓穴は崩れ落ちてしまうであろう。角型ショベルで水を搔き出す。気が付くのが遅かったせいか、搔き出しても搔き出しても水は減らない。さらに角型ショベルで水を搔き出す。角型ショベルで水を投げ捨てる。角型ショベルで水を持ち上げ投げ捨てる。角型ショベルで水を搔き出す。水を投げ捨てる。角型ショベルで水を搔き出す。途中まで仕上がった2基目の墓穴にも雨水が溜まりはじめる。慌てて角型ショベルで水を搔き出す。2基目はまだ地盤が緩い。雨水が溜まる。角型ショベルで水を搔き出す。土の壁が崩れはじめる。角型ショベルで水を搔き出す。角型ショベルで水を持ち上げ投げ捨てる。雨が降る。雨水が溜まる。雨水を搔き出す。水を持ち上げる。雨が降る。雨水を持ち上げる。雨水が溜まる。雨が降る。搔き出しても搔き出しても追いつかない。角型ショベルで水を持ち上げ投げ捨てる。雨が降る。土の壁が崩れる。雨が降る。土の壁が崩れる。雨が降る。土の壁が崩れる。雨が降る。土が崩れる。雨が降る。アメフル。 金子泰久