The White Report 月刊 ウェブ・マガジン
The White Report 2016年 4月号  最終回

–目次–
アナコンダ 第3回   ・・・・・・・・・ 大山 純平
confession
〜非論理が論理に反するのは論理的といえる〜
  ・・・・・・・・・ 澤田 育久
アナコンダ 第3回
大山 純平 (写真家)
朝、自宅の電話が鳴る。1コール毎に祖父が「おーい!」と叫んで母を呼ぶ。3コール目で母が2階から降りてきて電話に出る。「はい」「ただ今から心理テストを行います」祖母が畏まった様子で話す。母は無言で祖父の介護用ベッドのリモコンを操作し祖父の上半身を起こす。体が痛いのか苦痛の表情を浮かべる祖父の耳元に受話器を当てる。「あなたの目の前に大きくておいしそうなおにぎりがあります。さて、中身は何でしょう?」「辛子明太子…ていうか誰?」「忘れたの?この朝の山びこのように爽やかなこの声を。グッドモーニング、モーニング、モーニング…」介護職員が台所で受話器を祖母の口元に当てている。祖母は車椅子の車輪をロックされて口を半開きにしながら卵を割っている。目線は斜め上方のすりガラスの窓を見ている。「何だよ、お前かよ、今日日曜じゃねえかよ」「今日は篠山フーズの運動会でしょ。多摩川のグラウンドに9時集合」「そうだ…」送迎バスが自宅に到着し、洋間の窓から介護職員2人が入ってきて祖父を乱暴に車椅子に乗せる。苦痛の表情の祖父。「まったく、信じらんない…」祖母に当てていた受話器をOFFにする介護職員。「何が辛子明太子…」祖母の目線がテーブルに置かれたパックに入った生たらこに向く。「たらこ…たらこに辛子塗れば似た味になるかな…」祖母がうなされて独り言を言っているので職員が薬を取りに台所を出ていく。母が台所に来て祖母の乾いた白髪を撫でる。その度に祖母の瞼が引き剥がされ目玉が露出する。それを無表情で見つめる母。
多摩川の土手を走る送迎バス。車中では祖父が職員にスーツを着させられながら、別の職員が白いペースト状のものをスプーンで口に注ぐ。祖父の口の周りにペーストが付着している。送迎バスの扉が開き、車椅子に乗せた祖父を押して土手を駆け下りる職員。祖父は顔を引きつらせながら車椅子の手すりにしがみついている。「すいません」「おいおいおい、篠山フーズ担当のお前が遅れてきてどうすんだよ」「何やってたんだよ、お前のおかげでライン引きやらされて…」職場の同僚に怒られる祖父。息が上がっている。祖父に冷めた緑茶をストローで吸わせる職員。口の端から緑茶が流れ落ちる。祖父に母が車椅子に乗せた祖母を押して駆け寄る。「スーツなんか着ちゃって…何つけてんの、汚い、早く着替えて」祖父の口に付着したペーストを祖母が拭うと母がジャージを祖父の顔面に投げつける。「何それ理子ちゃん、ずいぶん用意がいいんじゃない?何か世話女房って感じよ、それ」二人をからかう同僚。汚れた口元を歪ませて手を振り否定する祖父。祖母も顔を歪ませて否定する。「そんなことないです、そんなこと言うとこいつ図に乗りますから」「すいません、これどこで着替えればいいですか?」「ここに決まってんでしょ、時間がないんだから」祖母の車椅子を押して祖父の車椅子にぶつけて祖父を急かす母。同僚たちがブルーシートを広げて即席の更衣室を作る。「何見てんだよ」祖父に怒られてふくれっ面の祖母。同僚が説明する。「いいですか片桐君、今日の私たちの仕事はね、あくまでも篠山フーズの御父兄と子供たちを立てることですから、わかってますね」「わかってます、ばっちりです。ね、お客様を立てる、それが営業マンの基本です」「そう」「あー哲平ちゃん、おしゃれですね、そのボーダーのパンツ、カルバンクライン?」同僚の言葉をよそに母が素早く祖父のリハビリパンツを脱がす。尿漏れ用のパットが付いている。「どれどれ?」ブルーシートから顔を覗かせる祖母。「見んなって」「おい、何やってんだお前ら時間無いぞ!」上司に怒鳴られてブルーシートごと撤収する同僚たち。「ちょ、ちょっと…すいません!」母に替えのリハビリパンツを乱暴に履かされている姿が公衆の面前に晒されて狼狽する祖父。「風邪ひくなよ」嘲笑う祖母。「はー!」赤面して叫ぶ祖父。
「らっきょう転がしに続きましては大人と子供の二人三脚です。このレースには社長が息子の篠山健二君とご一緒に参加いたします」白いジャージに“社長”と印字された大きなステッカーを貼った社長に上司が話しかける。「社長がんばってください、おい、ちょっと」上司が祖父に話しかける。「はい」「わかってるな、ここは…」「ああ、社長を勝たせればいいんでしょ?」赤い鉢巻をしてニヤつく車椅子の祖父。「よろしく」二人三脚で組む子供に握手を求める祖父。「どうせ負けるんだよ、あいつには」青い鉢巻の社長の息子を見る子供。「篠山って言って、社長の息子。勉強できるし、スポーツジムとか通ってて足も速いんだ」「ふーん、お前今、年いくつだ?」車椅子に座ったままの祖父の右脚と子供の左脚が職員によって赤い布で結ばれる。「10才」「10才でお前人生諦めんなよ、今諦めたら一生負け犬だぞ。自分より強い奴がいたら勝ってやるって、な。でないといつまでも強くなんかなれないぞ。違うか?」凛々しい表情で頷く子供。凛々しい表情で頷く祖父。「位置について、よーい!」ピストルが鳴りレースがスタートする。スタートダッシュに成功する祖父チーム。祖父の車椅子は職員が押している。「あのバカ」上司が慌てて祖父に駆け寄る。「片桐!」祖父が後ろを振り向いた瞬間、祖父チームの子供が躓いて転んでしまう。その反動で布で巻かれた右脚が引っ張られて痛がる祖父。職員が子供を起き上がらせる。祖父は車椅子に座ったまま微動だにしない。その間に社長チームに抜かれてしまう。それでも職員と子供の奮闘のおかげで2位でゴールする祖父チーム。「よくやった片桐、よくやった。中々の演出だったな、お疲れさん」笑顔で駆け寄る上司。微笑む祖父。「なんだ、あんなこと言っといてわざと負けたのかよ!」悔しそうに走り去る祖父チームの子供。「違うって、おい、ちょ待て…」口を半開きにして車椅子に座ったままの祖父が子供を見つめて呆然としている。
職員に持ち上げられ跳び箱にもたれかかされてタバコを吸って休憩している祖父。大きくあくびをする。「はい」弁当箱を差し出す祖父チームの子供。ベッドに寝かせられた祖母が、らっきょうの後ろから様子をうかがっている。「お兄ちゃん、本気出して負けたんだろ?」「うん」「今日はダメだったけどさ、人生諦めんなよ」祖父を見て祖母が鼻で笑う。それを見て祖母が仕組んだことだと気付く祖父。弁当箱の中身を覗き蓋を閉め傍らに置く。「ちょっと、何で食べないのよー!」母が祖母のベッドを祖父の車椅子にぶつける。「何が?」「これ!」「これお前作ったのか?何なんだこれ野球やるんじゃないんだから」野球のボールの縫い目のように海苔が巻かれたおにぎりを取り出して祖父が祖母をからかう。「私はねー、味で勝負なんだよ」「中身は何?」「ご希望の辛子明太子…」「ああ…」「…が無かったのでオリジナルの辛子たらこにしてみました」力強くおにぎりを差し出す祖母。「遠慮します」「ちょっと何よ!料理できないできないってバカにするからがんばって作ったんでしょー、文句言わずに食べりゃあいいのよ、早く!」母が祖母の手からおにぎりを奪い祖父の口に無理やりねじ込もうとする。そこに現れる同僚たち。「うまそうだなー、いいなーこれ」同僚たちが弁当箱から次々とおにぎりを持ち去る。「ああ、俺も呼ばれようかな」上司も来たが、弁当箱はすでに空っぽである。「残念だな…」上司は先ほど母がねじ込もうとしたおにぎりを祖父が持っていることに気付く。「課長どうぞこれ」薄ら笑いを浮かべる祖父。「いいのかな…」上司に聞かれ狼狽する祖母。「どうぞどうぞ、俺イヤってほど食ったんで。うまい…ですよ」「ああ、じゃあ、いただきます」おにぎりを受け取り立ち去る上司。「うまいと思います…。何怒っての?」「私が生まれて初めて作った記念すべきおにぎりだもん、一個取っといて神棚に飾っとこうとか思ってたのに」「そんな大げさに何だよおにぎり一個で」「知らないねー?食べ物の恨みは怖いんだよ、歴史にはねーおにぎり一個で戦争になった例だってあるんだから」「何だそれ」「サルかに合戦」「お前一回病院行って来い、頭ん中きっと虫湧いてるぞ」「それが恩人に向かって言う言葉かねー?何かほら埋め合わせしてよー、帰りに奢るとか」「ん?」「奢るの」「ごめんそれできないんだ俺」「何で?」「ばあちゃんの遺言でね、人に奢っちゃいけないって言われてるから」「ばあちゃん?何言ってんの?今朝だってね、あたしが起こさなけりゃね、また昼間で寝てて課長に雷落とされて片桐何やってんだって…」「わかったよ!じゃあ奢りゃあいいんだろ、奢りゃあ」「フルコースがいいわね、フランスの」「うっ!まずい、何だこれは!」上司が苦しんでいる声が聞こえる。「お前訴えられるぞ」満面の笑みの寝たきりの祖母。「ひーちゃん…」祖母がすでに死んだ友人の名前を呼んでいる。
インド料理店で食事する祖父と祖母。それぞれベッドに入っている。「何でこれがフルコースなの?」「どう見たってフルコースだろ、カレーは3皿ついてるし、ご飯はついてるし、サラダもあるし、あ、すごい、デザートのヨーグルトもちゃんとついてる。これはどう見たってフルコースじゃん。あ、ここのね、トマトソースすごくうまいんだ、ほんとうまいんだって飲んでみろって」「いただきます」「どうぞ」祖母の口にトマトスープをスプーンですくい注ぎ込む母。口元からトマトスープが流れる。「どうお味は?」店員が祖母に話しかける。「おいしいですー」「なーうまいだろ」職員が手でちぎったナンを祖父の口に押し込む。母がミキサーを持参して出された料理を次々にミキサーに入れていく。「はい、これは哲平ちゃんにサービス。もうすぐ誕生日でしょ、あさってだっけ?」「あ、すいません何か気遣ってもらっちゃって」「いいのよ、ごゆっくり」立ち去る店員。それを見て祖父をからかう祖母。「モテるねー、あさって誕生日なの?」「そうなんです、あ、ちょうどいいや、お前さ、フランス料理のフルコースかなんか奢ってよ」ナンを口いっぱいに入れられてネチャネチャと不快な音を口から放ちながら話す祖父。「あんな高いもんあたしが奢るわけないでしょー?何言ってんの?そうだ、手品見せてあげるよ」「手品?」「あたし今習ってるの」「何口から出まかせ言ってんだよ。普通手品なんか習わねーだろ」「ほんとだもん。先生にね、プロにならないかって言われてるんだよ」「ああ言えばこう言うでほんと負けず嫌いだなお前」「そっちでしょ、筋金入りの負けず嫌いは。どうゆう性格で、そうなったかねー?」「どうやっても勝てない奴がすぐ近くにいたからな」「ん?」「おお!」「おお!って…」「あっ、こんばんは」祖父の友人の吉本民夫が店にやってきた。「こんばんは」「どうしたの、座れよ、お前早く人来たんだからどかせよ!これ」「これ、返しに来ただけだから」「ん?」「いや、たまたま見えてさ、二人がいたの。あ、じゃあ俺帰るね」「おいちょっと待て…何なんだよ、おい!吉本、おい!」祖父が耐えきれず唾液まみれのナンをベッドの手すりの上に設置されたテーブルに吐き出すと職員が祖父のベッドを押して吉本を追いかける。「吉本!どうしたんだよ?」店の前の横断歩道で吉本に追いつく祖父。「お前と理子ちゃんってさ、喧嘩ばかりしてるように見えるけど、仲いいよね」「仲いいってなんか誤解してないか?なあ、俺が好きな女と一緒にカレーなんか食うわけねえだろ。もっとしゃれたとこ行くって」「そう?ほんとに?」「ちょっと点滅してるから、ちょっと来い」吉本の肩に腕を掛けながら一緒に店に戻る寝たきりの祖父とベッドを押す職員。店に入り祖母の向かいに吉本を座らせる祖父。「こいつね、飯食ってないんだって、ここな、タンドリーチキンスペシャルっていうのがおすすめだから、それ食え。醬油かけんなよ。俺ちょっと野暮用あるから、後は二人でごゆっくり」祖母の手が祖父のベッドの柵に引っ掛かる。「何?なに野暮用って」「どこで何をするか人に言えないことを野暮用って言うんだ」ベッドごと店の外に出る祖父と職員。祖父がタバコを吸おうとすると職員が素早くタバコを取り上げる。
職場にいる祖父と祖母。機嫌の悪い祖母のベッドを祖父のベッドに近づける母。「昨日だって何よ、奢るって約束だったのにお金払わないでさっさと帰っちゃって」「ねえ、ちょちょちょちょちょちょちょちょ」「何?」「今夜暇?」「何よいきなり」「うん?もしよかったらさフーラ行かない?昨日の埋め合わせじゃないけど…今日言って今日は無理か」「用事無い」「え?」「用事は…無いよ」「あ、そう」一転して機嫌が良くなる祖母。母が祖母をトイレに運び入れ鏡に祖母の顔を映す。祖母の白髪を櫛で整える。櫛はすでに祖母の抜け毛が大量に絡まっている。その間に祖母は口が半開きになり眠ってしまった。帰り支度をする祖父。「じゃあお先に失礼します」「じゃあ私もお先に失礼しまーす」「あ、何それ、何かそれ怪しいタイミングじゃないのー?もしかして二人でデート?」同僚にからかわれる祖父と祖母。嬉しそうな祖母のベッドの角に職員がわざと祖父のベッドを強めにぶつける。衝撃で祖母が目覚めてしまった。母が睡眠導入剤を用意する。「あれ、財布どこ置いたっけ?入ってるか。お疲れっす」しらばっくれて職場から出て行く祖父。階下では送迎バスが待機している。すぐに母が祖母のベッドを押して追いかける。「何で足踏むのよ!」さっきの復讐とばかりに母が祖母のベッドを祖父にぶつけようとするが職員が祖父のベッドを素早く動かし回避させる。「お前がイソギンチャクみたいについて来るからだろ」「社内の噂とか気にしてんの?ヤダねー、サラリーマンみたいだね」「うるせえよ」職員が早足で祖父のベッドを押して送迎バスへ向かうと、母も負けじと祖母のベッドを押して送迎バスへ向かう。
高木エリカと祖父。「あ、ここ私のマンションなんだけど寄ってかない?」「うん?いや…」恥ずかしがりながら高木エリカの部屋に四つん這いで向かう祖父。職員も同行する。「どうぞ」「お邪魔しまーす。うわーかわいい。いやー俺久々だわ、こんな女の子って感じの部屋」「ほんと?」ジャケットを脱ぐエリカに合わせて祖父のジャケットを脱がす職員。「じゃあ、得意技見せちゃおっかなー」職員が祖父を車椅子に乗せると早々にエリカを抱き寄せようとする祖父。「焦んないの。得意技って何?」「あんまりね、人には見せちゃいけないんだけど、千手壊拳つって1秒間に1000発打つからね」「そうじゃなくて、あっちで見せて」嬉しそうにベッドルームへ向かう祖父。「すごいよ、言っておくけどほんとに」職員が祖父を車椅子から持ち上げてベッドへ放り投げる。祖父がベッドに叩きつけられるとベッドから声が聞こえる。「痛っ!」「理子!」「お前何でここにいんだよ!」「佐々木君たちと飲んでたら終電なくなっちゃって家まで帰るとタクシー代高いんだもん」「あんたに合鍵渡すんじゃなかったわ」「ごめんごめん、このベッド使うでしょ?使うよね?あたしもう帰るから」無言で母がエリカの部屋に入ってきてベッドを整える。「俺帰るわ」「あたしが帰るわよ。さっきまでベッドにダイブするほど燃えてたんでしょ?遠慮することないって。それともここで見てる?」「別にお前に見せるために呼ばれたわけじゃないから。最悪だ…」「哲平、ほら、忘れ物、フーラに」母がカバンを祖父に投げつける。「じゃまた今度」「また」「磨きかけとくから」職員に車椅子に乗せられてエリカの部屋を後にする祖父。
雨の中、祖父の家の前で母の軽自動車に乗り待ち伏せる祖母。祖父が四つん這いで帰ってきた。「哲平!」「何やってんの?こんなとこで」母が軽自動車を祖父に寄せる。「このね、近くのカラオケ屋で歌ってたんだけど、あ、そういえばここって哲平ん家の近くじゃんって思い出して」「何それ?」「手品見せに来たんだよ」「手品?」「ねえお腹空いた、何かない?」祖父の部屋に入るなりすぐに冷蔵庫を漁る祖母。「人ん家来ていきなり冷蔵庫開けんなよ」「お腹空いて死にそうなの。あれ?何でさあキャビアなんてしゃれたもんが入ってんの?何、安売り?」「誰か来た時に開けようと思ってたの」「開けていい?」「お前手品しに来たんじゃないの?」「だってさ、その前に腹ごしらえしないと…あれ?何それー?ねえこれ飲んでいい?飲み足りないんだよね…」「おい!そんなこといいから見せるんだったら早く見せてよ手品」「わかったわよ」母が黒いシルクハットを祖母にかぶらせる。職員が祖父のベッドをリクライニングさせて上半身を起こす。「レディースエーンドジェントルメーン、イッツショウターイム!上杉理子のマジックショウの始まりー!」「こういうの着ないの?こういうの」「黙れ。チャラララララーン、チャラララララーンララーン」祖母がベッドに寝たままで口でBGMを歌うと母は造花を両手から出して祖母の体の周りに落とす。「お前何か持ってんじゃん」「うっさい。チャラララララーンララーン、ララ、ララララララーン、チャラララララーンララーン」母は金色の杖を取り出し数回振ると、それを一瞬で花束に変える。「チャラララララーン、じゃあ次はこのシルクハットの中からいろんなものを出しますからよく見ててくださいね」母が祖母のシルクハットを脱がせてベッドのテーブルの上に置くと、祖母が中から赤い布を取り出す。それをすぐに母が取り上げて数回振ると一瞬で金色の杖に変わった。「拍手は?チャラララララーン、チャラララララーンララーン」祖母がシルクハットの中からハローキティのぬいぐるみを取り出す。1体、2体とテーブルに置き、3体目は祖父の顔めがけて母が投げつける。「チャラララララーンララーン、チャラララララーンララーン、さて、本日のメインイベント、今日は特別にお客様に手伝っていただきます。そこのあなた、えっとですね、この紙に火をつけていただけますか?はい」「俺?」「お前しかいねーだろ、はい、火をひゅっと」祖父がライターで銀の器に置かれた紙に火を点けようとすると職員がライターを奪い取り火を点ける。燃え上がる炎に驚く祖父。入れ歯が外れそうになる。すぐに器に蓋をかぶせる母。「さてー?なーにが出てくるかなー?」蓋を開けると器いっぱいにケーキが詰まっている。「ダメだ。くちゃくちゃだ」すぐに蓋を閉める祖母。「何だよ見せろよ」「あ、何でもない何でもない」祖母の手から器を取ろうとする祖父。祖母の手に触れる。「何でこんなに手冷てえのの?」「冷え性だから?かな…」「待ってたのか…お前、俺が帰ってくるの待ってたの?」「…てるわけないじゃん。そんなわけないじゃん。どこで誰と会ってるかわかんないような奴のことさ、バカみたいにずっと待ってるわけないじゃん?」電話が鳴る。「電話だよ」「だったら先に言えよ…」「出なくていいの?」「いやなんか、もしあれだったら温かいもんでも淹れるからさ」「ほら」「なあ」水原さなえから留守電が入る。「もしもし、哲ちゃん、さなえです。さっきはごめんなさい。哲ちゃんの気持ちに鈍感だったこと謝りたくって…ほんとにごめんなさい」「さなえちゃんと会ってたの…」「ごめんなさいって、何が…」「なあ…」祖母を抱き寄せようとする祖父。しかし母が祖父の腕をつかんで引き剥がすと祖父の体をソファーに投げつける。「バカにしないでよ!こんなことしてほしくて来たんじゃないよ」母が祖母をベッドに乗せて布団をかぶせると手品セットを置いたままで足早にベッドを押して走り去る。祖父がベランダから外を見ると雨の中を軽自動車が走り去っていく。ベランダから部屋に戻り、銀の器の蓋を開けて中のケーキを見る祖父。ケーキには“Happy Birthday Teppei”と書かれたメッセージが添えてある。

※大山純平HP「擬人化した写真」連載中。毎週月曜更新。
confession 〜非論理が論理に反するのは論理的といえる〜
澤田 育久 (写真家)
実際に展示を繰り返してみてでしょうか
正直に言ってしまうと短い周期で連続的に展示を繰り返すのはとても大変です。しかしそれによって少なくとも私自身の更新は促されたように思います。時間的な制約がある中での物理的な作業量の多さは、自身に圧力を加える事によって私にそれまでまとわりついたものの見方、私が影響を受けてきたいろいろなものに対して揺さぶりをかけるといった意味でも有効だと思います。言ってみれば常に動くことによって判断中止を促し、それが思い込みを取り除くきっかけになり得ると思うのです。冷静に制作をしているとどうしても整合性のあるものに寄っていってしまうのは避けられないのでそれに如何にして対抗していくのか、真新しい何かをつくり上げるのではなく発見するにはどうすればよいのか、そのようなことを考えているのです。
短い周期で繰り返すことによって作品が不安定になってしまうことはありませんか
勿論それによって写真にばらつきが生じ、いろいろな写真が入ってしまうのは否めません。しかしそのぶれの振り幅を先ずは受け入れてどのような写真でも出していくことでいずれ写真が繋がって、それらの中から私のコードを導き出すための手がかりが現れてくるのではないかと思うのです。私にとっては行為を軸として漸進的に変化していくような切れ目のない過程を通して、自身の中の根源的な欲望を露わにしていくことが重要で、そのような意味ではむしろ作品が定形化されてしまうことは必ずしも良いことではないように思うのです。安定的な作品のクォリティは勿論大切ですが、それに拘泥することによって犠牲になってしまうものもあるのではないかと思うのです。
私にとってもっとも重要なことは継続的に制作し発表することであり、常に渦中に巻き込まれているような、境界線の曖昧な状態を保つことが必要なのです。自身も写真も信用しないという姿勢は逆説的にまだ現れていない何かがあるということに対する絶対的な確信であり、そのことが唯一の拠り所なのです。
「我々は上に近づこうと不死を求めた /ところが我々は以前より人間らしくなってる /不死は得られなくても現実を得ることができた /お伽話を信じて生き返ったんだ /しかしこの生活は現実だろうか /違うこれは映画だ /カメラ引いてくれ /我々は虚像だ /夢であり写真である 」 ~ホーリー・マウンテン~ アレハンドロ・ホドロフスキー
※これまで連載してまいりました”The White Report”は今回を持ちまして終了となります。これまでご愛読いただきまして誠にありがとうございました。暫く準備期間を頂きまして次回からは”The White Record”として展覧会の記録映像を掲載してまいります。今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。
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